「貴方の小指にくちづけを」





 川岸にあるつま先を
 貴方へと向けてみた

 ここからは戻れないけれど
 二度と戻らなくても良いように
 足跡にかけたおまじないを
 貴方は知らなくていいから



 まばゆいだけのことばで
 わたしは朽ちてゆく

 ぬるまる、この世界のように
 しっとりと夢を見られたなら
 今よりもうすこしだけ
 やわらかく笑えたでしょうか



 心臓に浸けた細い糸を
 この小指に結ぶくらいなら

 わたしの最期の吐息でもって
 貴方の小指にくちづけを



 くるぶしまでを浚われながら
 ここでまだ祈ることをやめない

 わたしはただ無垢に病んでいる





 20090511