「珊瑚樹の実」





 此の濡れ手では
 空すら仰げないこと

 地に堕ちてから知って
 乞うように詠い続ける

 朝露にくるまれたひかり
 いつも綺麗だったけれど
 さかしまになった世界を
 照らすだけの力はなくて

 せめてかなしくないように
 啜って生きてゆくから今も
 血潮が溶ける音がする



 ざらついた居場所を
 裸足でたしかめる
 もう立ち上がれはしない
 いづれは乾涸びてしまう



 それでも



 青葉のゆびさきに触れる
 その風はここまで届くこと

 芽吹く前から知って
 詠うように呼び続ける

 虫食む鼓動なんて痛くない





 20090609