「ひととせのちに」





 沈黙の音に告げられる
 そんなもの在りはしないのに
 片隅が識ったから事実なのだ

 感覚を思い出そうとして
 ひどく無様に痙攣する掌を
 たしかめるように
 或いは たしなめるように見る

 大丈夫、
 そうくちびるは言った

 使い古された三文字が
 今はどうしても必要な
 神聖で不可侵な呪文だった

 大丈夫、
 もう一度くちびるは言った

 沈黙の音は還らない
 ただそれだけの妙な事実が
 思い出せない思い出とそして
 あなたの呼び声を飾るまで

 あと数秒
 大丈夫、と目を閉じている





 20091224