「やさしい嘘」





 鮮やかすぎた赤い糸は
 蝶々のかたちをわすれて
 ただ死んだように綻び

 あんなにも私たち
 素敵だったのよ、と
 思い出で汚れた舌が云う

 重ねた体温の中にしか
 秘密は生まれなかったから
 二度と触れ合わない手は
 赤にも黒にも染まらないでしょう



 時計の短針を模して
 たしかに冷えていく世界へ
 あなたの唇を模して
 おやすみなさいと告げる



 怪我をした足では追えなくとも
 ゆっくりと本当に成ればいい

 結ぶ先のない糸を握り
 まぶたのあなたを閉ざした





 20100213