「ぬばたま」





 とうとう世界が泣き出した

 足りない時間が雨になり
 わたしの髪は濡れそぼる

 滴りながら膝を抱え
 瞳はたしかに辺りを映し
 それから 壊れる

 建前では止むことを願い
 痛みに耐えきれず

 仰いで

 閉じて



 鼓膜は世界を受け入れた

 浪費した時間が土砂降り
 わたしの頬に張り付く

 肌を伝うから音を知れない
 冷たさは優しいまま
 僅かな体温をも連れてゆく

 これだけ煩ければ大丈夫
 ぬばたまに生まれた心も

 落ちて

 亡いた




 20100306