「携帯電話とデジタル時計」





 ああ、とうとう、
 指先が作り笑いを諦めた。



 酷い迂回のあとで厳かに拒絶される温度

 こんな僅かな所作でさえ
 さようならを云える時代だというのに

 ぼくらは十まで数えておきながら
 足りないからと言い訳をして
 忘れた一をまた繰り返すのだ



 きみは知らないだろうけれど、
 反動はいつもこの部屋の隅に座って
 いちばん悲しい声で泣くのだよ。



 精巧な秒針の鼓動

 三半規管はすべて覚えている
 酷い迂回の途中で拾った意味を
 厳かに冷めたがっていた温度を



 十と二とを足した先、
 ぼくらはまだ数えたことがないけれど、

 平行線のその向こうで、
 お互いに出逢えるいつかを祈る、
 それしかできないぼくを許してね。




 20100412