「煙草」





 絵具を混ぜすぎてしまって
 金木犀の絨毯から
 黒い糸がほころびてゆく



 間を縫うようにして
 互いに違う利き手を重ねた

 明日を願うようにして
 ふたりの温度は在った

 のぼる 紫煙



 絵筆を握るその左手に
 藍の色は滲まないまま

 吸殻を捨てられないこの右手に
 残り香は居座ったまま

 きえる 紫煙



 交差する未来を描けないと
 カンバスが泣いている





 20100415