「兆し」





 公園に忘れたバケツ
 壊れて畳めない傘

 ふたつにあいたちいさな穴から
 零れ終わった雨のにおいがする

 いつだったか
 このちいさな穴に憧れていたんだ
 受け入れて抱き込まず零せるような
 従順な空間になりたかった
 ような気がしていた



 雨のにおいを連れて絨毯は飛んだ
 見上げられたころを忘れていった

 覆われない踝のそばで笑うから
 あやうく転びそうになるけれど
 もう転んだって泣いてあげない

 零れるものはみんな素直だった



 バケツの穴を手で塞ぐ
 傘の穴から空が覗く

 ほんの少しの抗いが
 どれほど痛いかまだ知らない

 確実に老いてゆくかつての憧れを
 受け入れて抱き込まず零せるような
 季節のようになだらかで在りたいと



 まなざしに兆しが見える





 20100420