「甘い嘔吐」





 錆びた針のにおい
 誘われて嘔吐がはじまる

 わたしは蚕などではないから
 既視感の再利用ばかりしている
 脱色された糸の毛羽立ちを
 何度も何度も糾っては解く

 忘れてしまいたい模様に
 結び目なんてものは見当たらない
 終わりの印を決められなくて
 出逢うたび繊細に複雑に甘く、



 そうして気付けば夜が明けている



 やたらと哀しいふりをして
 完成させられた目醒めは云った
 聞き厭きたような優しい声で

 おはよう、またさよならだ





 20100531