「猫舌」





 きみを想いながらつくった料理を
 食べる人など居ないと気づいたのは
 空がここまでやって来て
 火傷を疼かせた朝のことでした

 また絆創膏の奥のほうで
 痛みながら癒えてゆくのか
 痛みながら冷えてゆくなら
 どんなにか良かったのに



 夢を見たんです
 新緑が踊る景色の中を
 ふたり繋いだ手のままで
 後先を考える暇もなく笑っていた

 夢を見ていたんです
 醒めないでと願いながら笑っていた
 置き去りの祈りを無視したわたしは
 心から笑えてはいなかったでしょう

 夢を見ていたかったんです
 夢でもいいなんて自分を甘やかして
 あらゆる温度を犠牲にしながら
 それでもいいなんて酷い嘘を吐いて



 丸まった舌の根を伸ばし残り香だけを啜る際
 時折思い出したように呑み込むきみの名前ばかりが
 確かな熱で絆創膏の貼れない口内を焼くんです

 猫舌は非常につらいんです






 20100731