「黒揚羽」





 一夜あけて
 殺された悪夢を弔う

 思い出がないから
 思い出すものがなにもない
 単に忘れただけだとして
 大事に考えることでもない

 送り火には
 金木犀の花を添える

 届きそうで届かない
 ナイフの刃先のようだ
 手を伸ばす気にならないのは
 かつて痛みを知ったはずだから

 亡くなった理由たちが
 むかし座っていた椅子の上
 わたしとよく似た黒揚羽

 金木犀は燃えてしまって
 あげられるものさえなにもない






 20101009