「くさり」





 きり り、

 まるで金星のよう



 朽ちかけの止まり木が揺れる
 凍えはじめた指先からは
 赤く錆びたにおいがする

 易しすぎた愛の言葉と
 同じ数だけの約束たちを
 どうか どうか忘れまいと
 雁字搦めにしたものだから
 なにも本当にならないまま
 冷たさだけを模してしまった

 縛ったつもりが縛られていた



 私が恋した烏はもういない

 きり り、と小さく軋み
 指先をひとつ甘噛みして
 腐臭を振り払い飛び立った



 喩えた星は皮肉にも
 愛の女神なのだそうで
 いつか いつか出逢えたなら
 赤く錆びた鎖を還そうと思う






 20101103