「カロン」





 渦の真ん中で回るため
 片足立ちの不安定さと
 片目を瞑る不器用さを
 無理矢理に併せ持っていた

 すぐ足元で
 散らかった思い出が泣いている
 星の瞬きのような声を遺して
 ポニーテイルの後ろ姿が
 すう と燃え尽きてゆく



 精一杯に音速を目指した

 ふらふらと回る
 足元のものを蹴散らし
 三半規管を麻痺させてまで
 丁寧に心を燃やしてみたくて
 輝きながら尽きてゆきたくて

 誰かの思い出になりたくて
 呼吸の傍ら、回り続ける



 果たして倒れたなら
 ひとり分の祈りを懸命に背負ったまま
 どこへゆけるだろう
 どこかへゆけるだろうか






 20101126