「鬼の不在」





 得意の逃避を傍目に見て
 ほかに足音はないと知っても
 結末から五感を遠ざけていた

 息切れの隙間に生まれてくる
 わずか、と呼ぶにも満たないような
 疑問も回想も振り払い
 喘いではまた走り出す、只管

 知覚するまでは
 逃亡者でいられる

 いずれ枝分れしてしまうなら
 出来合いの理由に転ばされるくらいなら
 あらゆるものの温度すら
 忘れてしまいたかった



 もつれた足の悲鳴よ
 空気との摩擦で焼けた咽喉よ
 爆発寸前で生かされた心臓よ
 本当は伏せる前に眠りたいのだ

 この際、絶望という名で構わないから
 わたしに往き止まりを与えておくれ






 20101204