「春」





 届けたいいのちがある

 どれほど美しくとも
 またどれほど醜くとも
 その心を知れないあなたへ
 賭してでも伝えたいいのちがある



 語りべたちの声音は優しかろう

 あなたのまなこが
 日向のもとでとろける様を
 描きだすこともさぞ易しかろう

 あなたは奮え
 幼くやわらかい羽を広げ
 ちいさな両手のゆるすかぎり
 ひかりを抱こうとするだろう



 咽喉をすぎたひとしずくが

 暮れてしまった世界に吹く
 つめたい夜風を何度も受け止め
 星の数より多くのものから
 ほんの僅かのあたたかさを受け取り

 なりそこないの春でもせめて
 あなたのやさしい夢を育もうと
 ただ気高く生きたこと

 涙より先に
 思い出してもらうために



 今はまだ眠るばかりのあなたへ





 20110217